TOEICじゃない!? 欧州の語学力評価システム

TOEICじゃない!? 欧州の語学力評価システム

ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFRL)について

海外赴任に際して外せない(とされている)スキルの一つに語学力がある。ほとんどの場合、それは英語の語学力のことを指しており、日本企業においては一般的にTOEICの点数で測られるもののようだ。しかし、その権威には目を見張るものがある。ウェブで検索してみると「駐在員に求められるTOEICの目安は?」、「TOEIC何点取れば海外駐在出来るのか?」などの記事がいくつもヒットする。

弊社の所在するドイツでTOEICを取っている人をほとんど見たことがない。日本のようにTOEICのスコアが採用や昇進の指標にされることもない。ドイツ人の英語力は学校教育を基礎に、留学や旅行、社会に出てからのビジネス経験から実践的に培われていることが多いようだ。

TOEICの認知度がイマイチな理由については、欧州に別の語学力評価システムがあることも関係していそうだ。ご存じのように欧州ではさまざまな言語が公用語として使用されている。英語を対象としたTOEICだけでは到底間に合わない。欧州各国間では、学校で英語の他、第2、第3の言語を習得していくことが強く推奨されている。その後も、留学、国境を超えての就職活動なども珍しくない。このような場合に、外国語のスキルを測る物差しが国によってバラバラだったら、色々と不都合が起こりそうだ。

そこで欧州はどんな言語も公正に評価できる物差しを開発した。「ヨーロッパ言語共通参照枠 (Common European Framework of Reference for Languages : CEFRL)」である。その最大の特徴は、言語能力がある言語の「知識」ではなく、言語を持って行われる「タスク」によって評価されている点だ。以下、A1、A2、B1、B2、C1、C2の6段階におけるそれぞれの定義を見てみよう(以下は著者による抄訳)。

A1: 初級者

日常的によく使われる表現や、具体的なニーズを満たすためのごく簡単なフレーズを理解し、使うことができる。自分紹介や他の人を紹介でき、例えば、どこに住んでいるか、どのような人を知っているか、どのような物を持っているかなどを質問することができ、その質問に答えることができる。簡単な方法でコミュニケーションをとることができ、相手がゆっくり、はっきりと話してくれるなら相手を助けることができる。

A2: 基礎的知識

身近なことに関連する文章や頻繁に使われる表現を理解できる(例えば、個人や家族の情報、買い物、仕事、地域の情報など)。身近で通常の事柄についての直接的な情報交換が行われる、簡単でルーチーンの状況であれば意思疎通を図ることができる。自分の出身や、経歴、身の回りの環境や身近なニーズに関連することを簡単な言葉で説明できる。

B1: 高度な言語使用

明確な標準語で仕事、学校、余暇などの身近な事柄についてその要点を理解できる。その言語圏を旅行する際に遭遇するほとんどの状況に対処できる。身近な話題や個人的に関心のある分野について簡潔なまとまった文章を作成できる。経験や出来事、夢、希望、目標などを説明でき、計画や意見に対して簡単な理由や説明をすることができる。

B2: 自立した言語使用

自分の専門分野の技術的な議論を含め、具体的・抽象的な話題に関する複雑なテキストの主旨を理解できる。ネイティブスピーカーとの通常の会話が、お互いに大きな努力なしに可能なほど、自発的で流暢なコミュニケーションができる。幅広いテーマについて、明確かつ詳細に自分の意見を述べることができ、話題性のある問題について自分の見解を説明し、さまざまな選択肢の利点と欠点を述べることができる。

C1: 専門的な言語知識

含意を含めて、幅広い高い要求の長い文章を理解できる。はっきりと識別できる言葉を探さなくても、流暢かつ自発的に自分を表現できる。社会生活や職業生活、あるいは職業訓練や勉強において、効果的かつ柔軟に言語を使用することができる。明確、構造的、かつ詳細に複雑なテーマについて表現でき、その際、文章をつなぐ様々な手段を適切に利用できる。

C2: 母語話者に相応する言語知識

読んだり聞いたりするものはほとんどすべて苦労せず理解できる。さまざまな文章や音声資料から得た情報を要約し、理由や説明を加えて、一貫性のあるプレゼンテーションを行うことができる。自発的に、非常に流暢かつ正確に自分を表現することができ、より複雑な状況でも意味の細かいニュアンスを明確にすることができる。

さてどうだろう。あなたの英語力はどのレベルにあるだろうか?ご覧のように、ここではタスクが基本となっているので、個別の言語には全く言及していない。従ってこの評価方法であれば、欧州の言語に限らず、世界中のどのような言語でも評価ができるということになる。

移民政策上のCEFRL

ドイツではこのCEFRLが絶対的な権威となることがある。それは移民政策の柱として行われている「インテグレーションコース」においてである。インテグレーションコースとは600授業時間(1授業時間=45分)のドイツ語学コースと、ドイツの政治、歴史について学ぶ100授業時間のオリエンテーションコースとから構成され、ドイツで長期在留を希望する外国人が必ず通らねばならない関門となっている。履修後に行われる語学試験ではCEFRLのB1レベル相当であることを証明しなければならない。ドイツの移民政策の原則は「支援と要求(gefördert und gefordert)」、つまり徹底したギブアンドテイクだ。国が滞在と就労への門戸を開く代わりに、在留希望者は一定レベルのドイツ語を習得しなければならない。コース費用の半分を国が負担し、交通費や託児所などの支援もある。逆に、受講者が真面目に取り組まず、途中で投げ出した場合は罰金規則の他、受講資格の取り消しもありうる。その先にあるのは最悪の場合、在留資格延長の拒否、つまり国外退去だ。

かくして、ドイツの語学コースは大体CEFRLレベルに準拠して構成されている。欧州でTOEFULのスコアで微妙な反応が返ってきたら「CEFRLの〇〇レベルです」と言ってみよう。相手の反応が変わるかもしれない。

EF EPIランキング

もう一つCEFRLが日本人に関係する場面がある。これは我々には少々耳が痛い話だ。年に一度、様々な国と地域が英語力によってランキングされる「EF EPI英語能力指数」である。この指数を導き出すために使われる「EF英語標準テスト」は、上述のヨーロッパ言語共通参照枠のレベルに分類できるように設計されている。

112の国と地域を比較した2021年のランキングで日本は78位であった。残念なことに年々順位を下げている。これはテストの参加国が増えたことによるらしい。どうやら日本人の英語力そのものが下がったのではないようだが、実は日本人の英語力は思っていた以上に低いものであることも露呈した。

ここでなお一層、英語の勉強に力を注ぐのはおそらく本末転倒だろう。言語はコミュニケーションの手段であり、ランキングは英語コミュニケーションに対する社会のありようを映し出した「結果」にすぎない。EF EPIでも指摘されているように、ランキングは英語でのコミュニケーションの絶対量と強く比例しているのだ。限られた人が限られた場面で使うものという英語の位置付けが変わらない限り、日本のランキングの大幅な上昇は難しいだろう。