コロナ災禍におけるドイツの中小企業支援策
ドイツ国内で始まった都市封鎖もすでにまる2週間を超えた。開始当初は一時的に買い占めが起こったり、公園などで遊ぶ子供連れが見られたりしたが、今は市民も新しい状況を受け入れ、再び落ち着いてきているように見える。
日本でも日々感染者数の増加が認められ、政府から不要不急の外出を控えるよう呼びかけが続いている。だが、ドイツと日本の決定的な違いは、ドイツで取られている措置は連邦政府が定めたコロナウィルスの防疫ガイドラインに基づき、各州が政令として発表した「法的根拠」に基づくものであるということだ。この政令は市民の行動制限と営業禁止について具体的に規定しており、例えば、全ての娯楽施設、飲食店、スポーツ施設、理美容院などの営業は禁止されている。また公私問わず、各種イベントの開催も禁止だ。ベルリンではこの政令が3月14日に発効し、4月19日まで有効である。この政令発布が、中小企業救済策でも決定的な役割を果たしている。
日本では現在のところ、すべての行動規制、営業停止は自粛がベースとなっている。自粛とは定義的には誰にも強制されず、最終的には自分の判断で行動規制、営業停止を行なっているということになるので、この状況に誰も補償を求めることができない。
ドイツでは法令があることによって責任の所在が明確である。今日から店を閉めるのは、お上のお達しがあるからである。この公的な介入で店を強制的に閉めさせられた事業主らは当然国に補償を求める。小売店、飲食業などの小事業者にとって、店じまいは一刻を争う事態だ。家賃に人件費の支払いが待ったなしにやってくる。ドイツ連邦政府と各州はガイドライン発表から、わずか2週間で小事業者向け救済案をまとめて見せた。連邦政府は「緊急救済措置(Soforthilfe)」として500億ユーロを補助金に充当した。個人事業主および5人までの従業員規模の企業に対して3ヶ月分として一括で9,000EURまで、10人までの従業員規模の企業に対して同じく15,000EURまでの補助金が支払われる。拠出は連邦と州とで分担して行なっているため、州によってはさらに従業員数50人までの企業について25,000EURまでの補助金を出す州(NRW州)もある。すでに3月30日より各州立銀行が窓口となって申請手続きを開始しているが、手続きは簡単にオンライン上で完了できる。納税者情報、登記番号、会社住所、口座情報などを入力の上、送信する。申請理由も該当するものをマルチプルチョイスで選ぶのだが、ここでも先の法令の存在が重要だ。条例で挙げられた営業禁止業態であるか、あるいは法令の発布日を境に著しい収益減退が認められるかなどが問われ、法令が決定的な参照点となっている。
報道されているように、ドイツでは3月半ばより主要な自動車会社の生産ラインで操業が停止している。これに伴い、彼らのサプライヤーらも次々に社員の労働時間を規定より減らす「時短勤務」に踏み切っている。雇用側が時短勤務を申請すると、雇用側は従業員に対して就業時間の出来高で給料を支払うことができる。従業員側は就労時間を減らされたことにより生じる減給分を、国(管轄は労働局)から充当される。給与は正常時の給与額の60%になるように調整される(子供がいる場合は67%)。時短勤務はすでにドイツの社会保障制度として組み込まれたものであり、コロナに特化された施策ではないが、大量失業者を未然に防ぐとともに、経営者の人権費負担を軽くするという意味で、救済策の一部と捉えられる。
ドイツが国土封鎖を余儀なくされたのは、イタリアでの感染爆発が間近に迫っているという危機感からだっただろう。しかし、決定後の対応には目をみはる速さと大胆さとがあった。「第2次大戦以来の試練」とメルケル首相が国民に語りかけた時、政府は壮絶な国民への行動干渉を強いるとともに、救済支援のための莫大な拠出についても腹を括ったのではないだろうか。
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