ドイツビジネス情報:経済面で見るドイツの魅力

ドイツベンチャーキャピタル市場

ドイツのスタートアップは2019年、VCから57億ドルという記録的な投資を受けた。これまで最高とされた2018年の投資額からさらに49%増加した。

【図1: ドイツのVCによる投資額】

2020年時において、ドイツはアメリカ、中国、英国に次ぐ、第4位のVC市場である。世界最大のVC市場である米国は1,000億ドル以上の規模があり、中国も500億ドル以上の市場である。さらに世界第3位、欧州ではトップの英国は112億ドルの市場規模を持つ。これらの国に比べると57億のドイツのVC市場はまだまだ小さいと言える(日本はカナダ、フランスに次ぐ7位)。

しかし市場の伸び率ということで見るとドイツは活況にあると言える。米国への投資額は前年から7%の増加にとどまっており、また中国は前年から55%も減少している。前年比で49%増のドイツのVC市場は小さいながらも成長目まぐるしい、ということが言えるだろう。

投資額全体が増大している一方、投資件数は逆に減少している。2018年、ドイツでは862件の投資案件が確認されているが、2019年には785件と9%減少している。この傾向はドイツだけではなく欧州全体について当てはまり、英国で16%、フランスで35%、スウェーデンでも18%、それぞれ投資件数が減少している。

【図2: 各国のVC市場規模】

近年ドイツの投資家らはより海外に目を向けるようになっている。2018年、ドイツの投資家は3.6億ドルを海外スタートアップに出資している。同時期の国内への投資額は2.7億ドルであり、海外への投資が国内を上回っている。海外のスタートアップがドイツの投資家を頼る理由として、投資家から現地の市場動向についてアドバイスを受けたい、というものがある。特に特定の分野に絞って投資する投資家の場合はこの傾向が強い。シリコンバレーのスタートアップらも欧州進出に関心を寄せる。しかしこのことはドイツ国内の企業にリスクキャピタルが降りてこないことを意味している。

ドイツではシード・スタートアップフェーズ向けの少額プログラムは公的VCにより比較的多く用意されているが、成長フェーズ向けの支援策が少ないという構造的問題を抱える。スタートアップ企業への投資のうち42%までが15万ユーロ未満の投資であり、1,500万ユーロ以上を一社に投資するファンドは皆無である。1億ユーロ以上の投資においては完全にアメリカ、中国のVCに頼っている状況である。成長フェーズへの投資は毎年5億から6億ユーロ不足している。取引額の平均が小さいことからドイツスタートアップは実力よりも低く企業価値を見積られる傾向もあるという。さらには公的基金主導の弊害も指摘されている。公的基金による投資額は毎年上限が決まっているため、停滞のないスケーリングや爆発的成長が妨げられる可能性がある。この状況を打開すべくドイツ政府は2020年に「スタートアップ未来基金 (Zukunftsfonds)」を創設し、2021年度予算より10年間で100億ユーロ分をスタートアップ投資に配分することを決めた。この基金では特に成長フェーズにあるスタートアップが対象となる。

White Star capital (2020): German Venture Capital Landscape 2020.
https://medium.com/venture-beyond/diving-into-germanys-venture-capital-landscape-in-2020-291cf4b86f2
PwC (2020): Venture Capital Marktstudie 2020. https://www.pwc.de/de/deals/pwc-venture-capital-marktstudie-2020.pdf