ドイツビジネス情報:経済面で見るドイツの魅力

2022年3月ドイツエネルギー政策の動き

気候中立目標を2045年まで前倒ししたドイツのエネルギー政策が、ここにきて大きく足元をすくわれている。原子力、石炭火力から再エネ100%への移行期にそのギャップを埋めるはずであったガス資源の主要な供給元がロシアなのだ。ドイツは1日でも早く、露ガスからの脱却を図らなければならない。この3月は、1ヶ月で半世紀分のエネルギー施策が行われたのではないかと思われるほどの激動ぶりであった。既に日本で報道されている内容も多いが、この記事ではダイジェストでこの1ヶ月のドイツエネルギー動向を振り返りたい。

 

 

ガス購入代と軍備増強と

ドイツの露ガスへの依存度が50%を超えていると言うことは、報道でご存知の方もいるかもしれない。昨年は600億立方メートルの天然ガスがロシアからバルト海パイプライン「ノルドストリーム1」でドイツに輸送された。ドイツは2014年以降、ガス、石炭、石油のためにロシアに約1,700億ユーロを支払っているという。2014年はロシアがウクライナのクリミア半島を併合した年だ。野党である左党のディートマー・バルチュ党首は「全く不合理だ。先に1,700億ユーロをロシアに送金し、その支払い先から自らを守るために1,000億円ユーロを軍備に回そうとしている」と政府を批判した。

 

褐炭の復活はあり、原子力はなし

露ガスへの依存から早急に脱却するため、気候中立への道は一旦棚上げにしてでも、ガスに依存しないあらゆるエネルギー供給の方法を検討しなければならない。まず検討されたのは原子力である。原子力発電所は2022年までに完全に系統から外されることになっており、現在、最後の3基が稼働している。しかしこれらを延長して稼働するという可能性は早々に排除された。福島原子力発電所の事故からわずか3ヶ月で原子力撤退の決定をされた事業者側の態度が冷たかったこともあるが、ベルリン工科大が行ったコスト試算でも、新たな認可、人員確保、安全インフラの再構築が数年程度の稼働ではペイしないと分かったためだ。

石炭・褐炭発電はどうか。こちらは遅くとも2038年までのフェーズアウトが決まっている。さらに現政権はこのフェーズアウト完了を8年前倒しして2030年とする見直し案に合意している。ここ数年は石炭火力に早々に見切りをつけ、償却も終わっていない発電所が閉鎖することが相次いでいた。原子力とは対照的に、これらの電源は大いに再活用する可能性がある。「安全リザーブ」と呼ばれ、本来なら2023年には解体に入る予定の褐炭発電所もスタンバイを続ける可能性が出てきた。問題は気候に悪影響を与えることだ。

 

ドイツ初のLNGターミナル

並行してドイツが行ったのはLNGターミナルの確保である。これまでガスは道管で陸送されるものと信じて疑わなかったドイツには未だLNGターミナルがない。これは長期的には気候中立に逆行する投資であるし、建設には何年もかかる。しかし世の中には便利なものがあるらしい。浮体式LNGターミナル(Floating Storage and Regasification Units: FSRU)と呼ばれるもので、船舶の姿をしている。しかし便利なだけに需要も高い。現在、世界で48隻のFSRUが稼動するが、そのほとんどが契約済みであるという。これを連邦政府はRWE社、Uniper社を通して3隻、少なくとも2隻へのアクセスを確保したという。北海に面し、小さな湾を形成するヴィルヘルムスハーフェンなどが陸揚げ地の候補に上がっている。当地を含むニーダーザクセン州では「2基分のFSRUからのガスの陸揚げ、輸送を短期間で実現できる」と連邦政府に売り込んでいる。これにより、早ければ2023年には約200億立方メートルのLNGを輸入することが可能になるという。LNG供給には米国が全面協力を申し出ている。今でこそありがたい申し出だが、つい先日までドイツはノルドストリーム2の建設に制裁を加える米国に対して、内政干渉だと避難し、自国のLNGを押し売りしたいだけと言っていたのだ。

 

新しい契約交渉

3月後半ハベック大臣はカタールにも出かけて行った。新しいLNG供給に向けた交渉を行うためだ。ドイツ側はパートナーシップが締結されたとの認識でいるが、カタール側は合意したとまでは言っていない。こちらも今日に明日にまとまりそうな話ではなさそうだ。

この間にも事態はさらに進んでいる。ロシアはガスの支払いをルーブル建てで要求。ドイツのショルツ首相はもう一度契約書を見直したという。記者会見の場で「契約書にはユーロ建て、もしくはドル建てとあり、ルーブルとは書いていなかった」と発表した。おそらく契約の読み違えはないだろうが、ガス供給停止の恐れはまた1段階強まったように見える。

 

国民の負担軽減

暴騰するガソリン代、全戸の半数以上が使用するガス暖房代が国民の生活を圧迫し始めている。そこでドイツ政府は28日「負荷軽減パケット」を内閣で了承した。内容としてはまず、所得税納税者を対象に一括で300ユーロの補助金を出す。ガソリンは1リットルあたり30セント、ディーゼルは14セントの値下げを行うとした。また、公共交通チケットも全国で値下げされる。3ヶ月間限定で、月額9ユーロの市内・近距離の公共交通チケットが支給される。

さらに実現されるかどうかはわからないが、年末までの高速道路の速度規制や、月々定額で支払うエネルギー料金を今から多めに徴収する案などが出されている。ドイツではエネルギー料金を月々定額で前払いしておき、年末に実際の使用量に応じて精算するシステムだ。年末に初めて高額の超過料金を知らされて支払いができないと言う事態を未然に防ぐためだ。

三寒四温とはよく言ったもので、ドイツでも3月は日中15度を超える暖かな日が続いていたが、4月第一週の週末は各地で降雪を記録している。暖房を我慢し、室内で厚着をする日々がしばらく続きそうだ。